立命館産業社会学アイキャッチ

大講義室から仕掛けるトランスな学び:立命館大学産業社会学部「まちづくりと産業」

挑戦から得られる何か

立命館大学産業社会学部「まちづくりと産業」科目担当教員の永野聡(ながのさとし)准教授(立命館大学産業社会学部)は「何もやらないより、これまでにやったことのない新しいことに取り組んだ方が、得られるものがある」と強く頷いた。

永野は今、大学で一般的な大講義室での講義を全くの別物にしてしまおうという、新たな取組みを仕掛けている。

講義のあり方

「チャイムがなってから終わるまで、教壇に立って学生たちに私の講義を語りかけている方が、授業を運営する側としてははるかに楽です。これまでも大協議室で講義を行ってきましたし、まちづくりに関して学生に伝えられる知識とコンテンツは十分に持っていると思います(永野)」。

しかし永野はなぜ、自負のある講義を行わないと決めたのか。

「講義形式で、私の講義した内容が学生の心や頭の深いところまで本当に伝わっているか、ここに疑問と、課題を感じてきました(永野)」。

クイズ、スマートフォン。授業?

講義開始のチャイムが鳴り、永野が講義室に入った。

すると、唐突にクイズが始まった。

「あれは、言ってしまえば動機付けのための”にぎやかし”です。授業で取り組んでもらうテーマに関連したクイズや動画を使って、学生たちに『今日はこんなことに取り組むのか。』というイメージを感じてもらいます。固い言い回しで言えば『興味・関心を喚起するための導入』と位置付けています(永野)」。

クイズが終わると、永野は天井に設置されている複数のモニターを利用して、大講義室を区分するように学生たちを促した。

「単純な指示なのですが、口頭で指示を行うと時間と労力を要します。些細なことですがこれも現場での試行錯誤から学びました(永野)」。

(授業で永野から掲示された学生の配置図)

講義室を日常と同じように、学びを遊ぶように

ここで永野から提示された今回の授業のテーマは「京都以外の食に関するまちづくりと産業」。

学生たちはテーマを聞くと、それぞれが所有している個人のスマートフォンを取り出して情報収集を始め、各グループごとにグループ内での情報共有が始まった。

「これが俺の地元埼玉のソウルフードの十文字饅頭なんだけどさ(学生)」。

「新潟県には製菓会社が多いね、やっぱり米で出荷するよりおかきなどのお菓子にした方が儲かるのかな(学生)」。

各学生が検索した情報を見せ合いながらお互いの知識や新しく得た情報を共有し始めた。その姿はまるで休み時間にSNSのアドレスを交換し合う学生たちのようで、表情は明るい。

シャープペンで一心不乱にノートを取る学生、「自分のことは構ってくれるな」とばかりに机に突っ伏している学生、講義室の後ろの方で携帯ゲームに興じる学生の姿は、目にすることができなかった。

トランス・ラーニングの精神

詰め込んだ100より、自分で調べた10にこそ

永野は独自のメソッドである「Trans-Learning(トランス・ラーニング)」の開発・導入を通じて、大学での学びの姿を抜本的に変えてしまおうという取組みを進めている。

「Trans-Learningは誤解を恐れずに言えば『教育をしない。』ということです。私が教育者として振る舞うのではなく、学生がテーマに基づいて自ら情報収集と分析をし、収集した情報と分析をもとに教材を作成し他の学生に教える。『教えることが一番の学びである。』という、昔から多くの人が感じてきたその暗黙知を、大学で具現化するために開発しているメソッドです(永野)」。

高校から出たばかり、まだ20代そこそこの学生たちの知識で教えることが、本当にためになるのだろうか、そんな疑問が頭をよぎった。

寺子屋ではなく、21世紀であるという事実

「ご想像の通り、学生が調べた情報は、学生の調べた情報のレベルです。時折、自らが90分間講義した方が、より多くの知識や情報を提供できると感じる時もあります。しかし、一方的に詰め込んだ情報は、本当に学生たちに咀嚼され、学生たちの中に残るのだろうか。寺子屋の時代であれば、論語や往来物といった、当時手に取ることも貴重な情報を教師づてに教わること自体が大きな価値であったのだろうと思います。しかし今は21世紀。学生たちが自ら興味を持てば、探し出せる情報は無限に存在しているわけです。少々我慢が必要なメソッドではありますが、最終的に学生自身がものにできる知識や考えの広がりにこそ、価値があるのではないかと(永野)」。

表現を学び合う

「教材作成に関しては、手書き・パソコンと自由にしています。手書きのグループの教材にもメリットはあり、パソコン上で作成した教材にもメリットはあります。パソコン上で作成した資料の場合は写真や動画、アニメーションなど、私から見るとより効果的な教材作成が可能だと思いますが、それも学生同士の教え合いで学生自らが感じ取って、取捨選択するよう促しています。『あのグループの方がインパクトがあっていいな』程度の気づきですが、自分たちで気づいて取り組むことに重点を置いています(永野)」。

次のステージへ

永野は手応えを感じる一方で、さらなる革新に向けた課題も感じている。

「学生同士の教え合いでも、ある程度の質疑応答や議論は可能ですが、『そこまで調べたのであれば、もう一歩この点を深めるともっと面白くなる』といった前向きな突っ込みは学生間では難しいです。私やTAが各グループについて、さらなる深堀や興味・関心の喚起を促すことがより良い授業運営だと思いますが、その場合クラス担当と学生数のバランスの問題点に直面します。この課題に関しても、既存のアプローチに固執せず、LMS(ラーニング・マネジメント・システム)のManabaを始め、新しいツールなどを積極的に活用して更なる革新を実現していきたいと思っています」。

グループティーチング中の学生たちと永野准教授

学内LMS、Manabaを使ったレポート提出

 

立命館大学産業社会学部准教授

永野聡(ながの さとし)

2014年10月、博士(建築学)を早稲田大学にて取得。豪州、アデレード大学建築・都市スクールの訪問研究員の後、福井大学産学官連携本部の研究機関研究員として産学官連携プロジェクトに従事。その後、三重大学地域人材教育開発機構の講師としてCOC+(知の拠点大学による地方創生推進事業)に従事。高等教育コンソーシアムみえの組織づくりにも関与。主な研究活動としては、公園緑地の計画史、震災復興まちづくり、アクティブ・ラーニングの教材開発、等。