人々の苦しみや困難に寄り添うこと:清泉女子大学ハンガーバンケットチーム

知っている、ただそれだけでは他人事に

「世界はこうなっている、という知識だけでは、結局”他人事”で終わってしまうのです」。

清泉女子大学 松井ケイティ教授(文学部地球市民学科)

困難に直面する人の気持ち

松井が最初に投げかけた。

「世界人口75億人のうち、統計学上何人が飢餓で苦しみ、何人が1日2ドル以下の生活を余儀なくされているか。数字を見ても、実感は湧きにくいものです」。

昼休みの40分を利用した新1年生のメンバー勧誘のためのイベント、ハンガーバンケットが始まった。

人々の苦しみに寄り添うということ

「今から、この世界の問題を自分ごとにしてもらうために、みなさんにはそれぞれお金持ち、普通の人、所得の少ない人になってもらいます」。

松井はそう言い終えると、伏せられたカードを1枚ずつ、参加者全員に配った。

カードには1)高所得者、2)中所得者、3)低所得者の3ステータスのうちの1つが記入されている。

受け取ったカードのステータスに合わせて、松井は学生たちに食料に見立てたお菓子を手渡し始めた。

高所得者カードを受け取った学生は袋いっぱいのお菓子を、低所得者カードの学生はひとつまみのお菓子を受け取った。

ハンガーバンケット

ハンガーバンケットは、コミュニティ・ファンドレイジングという寄付金を集めるために考案された参加型ワークショップ。

擬似体験を通じて飢餓の問題を自分ごと化した参加者が、不平等な配分を受けた当事者として感じたことを共有しあったり、食料以外の「不公正・不平等」に関する議論を行ったり、また飢餓の問題の原因やその原因に対する解決策を議論し、提案したりするなど、参加者の気づきと将来の行動に繋がる仕掛けが用意されている。

それぞれの意見を述べ合う

低所得者のカードを引いた学生がまず先に自身の感想を話し始めた。

たくさんのお菓子をもらっている人を見ると、いいなと思います」。

「私は、『自分はなんでこれだけ』、と思ってしまいました」。

反対に高所得者のカードを引いた学生は、こう意見を述べた。

「いきなりお菓子をもらって嬉しい気持ちもありますが、周りの人がそんなにもらっていないので後ろめたい気持ちにもなりました」。

感じることから

こちらから何かを説明するのではなく、参加者のみなさんが感じることが大切なんです。低所得者カードを引いた人は、不平等さを感じたり、また妬みや嫉妬の感情も持つかもしれません。逆に高所得者の方々は、突然得られた食料に喜びを感じながらも、周りを見渡した際にちょっとした罪悪感などを感じることもあるでしょう。教室内を俯瞰してみると、参加者のみなさんは世界に富は十分にあるが、平等に分配されていないことに気づくのです(松井)」。

松井は、ゲームの途中で数人の参加者にカードを再度配り始めた。

改めて配られたカードには、”突然の事故”や”自然災害”といったアクシデント、また”突然の経済的成功”といった出来事など、人の生活を一変する事象が記されている。

カードの記述に応じて、一度配った食料を没収される学生、袋いっぱいのお菓子が再配分される学生が出る仕組みになっている。突然財産が取り上げられたり人、必要以上に配分を受ける人、それぞれの参加者が自分と他者の目の前に置かれている状況が変化していく。

始めたきっかけ

松井は、この取り組みが始まった頃のことを思い起こしながら、話してくれた。

「ちょうど2000年、清泉女子大学50周年の際のことでした。『清泉女子大学全体で何をしよう』という議論が持ち上がり、その時テーマとして上がったのが『地球市民として生きる』でした。その時はまだ地球市民学科はありませんでした。当時、私はまだ学生でしたが『ハンガーバンケットを行おう』と提案しました。この活動は地球市民学科設立以後は地球市民学科の2年生が主体者となって、現在まで継続しています」。

その狙いとは。

「例えば、地球市民学科で行なっているフィールドワークを例に挙げると、実際にアフリカ大陸東南部にあるマラウイに行って、HIVに苦しんでいる人、HIVで親を亡くして祖父母と一緒に暮している子どもたちを実際に見に行きます。見ると自分の問題になってくる、感じるものがあるからです。これをTouch the heartと呼んでいます。学内での勉強はTouch the Mindそれがフィールドワークなどを通じてTouch the heartに。そうすると『何かしなくては』という気持ちにかられるようになる。これが地球市民学科の学生に経験してほしいことなんです。このハンガーバンケットは、Touch the Heartを経験する活動なんです(松井)」。

そして松井はこう締めくくった。

何かの課題に取り組むために活動を起こすためには、必ず多くの方々のサポートを必要とします。この『ハンガーバンケット』はそのような活動の第一歩に当たります。この第一歩を踏み出したみなさんがお互いに助け合って、活動を盛り上げていってほしいと思います。この第一歩を踏み出したみなさんは、少し期待が大きすぎるかもしれないですけど、世界の平和を背負い始めた、と思ってもらえるかもしれません」。

清泉女子大学文学部地球市民学科教授、同大学院地球市民学専攻教授

松井ケイティ

米国ゴンザガ大学で博士号(リーダーシップ研究)取得。日本平和学会、アジア・太平洋平和学会など所属。清泉女子大学で国際交流委員会委員長も務める。紛争解決をはじめとする平和関係の問題について長く教鞭をとる。また、武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップにおける 国際平和教育研究集会を中心に国内外の平和研究者と連携。現在ははハーグ平和アピール、平和教育グローバルキャンペーン等平和団体の役員を務める。著書に『幸福へのアプローチ』(2001年)、Lessons from WWII Comfort Women(2012)などがある。