頑張ってみようのきっかけに:京都学園大学バイオ環境学部食農学科食品加工学研究室

苦手だと目を背ける自分に向き合う

「最初は食品物性学の授業の内容はちんぷんかんぷんで。それはそれはとても難しくて・・・」。

川部博愛(京都学園大学バイオ環境学部食農学科)は自らの大学生活を懐かしそうに振り返った。

今振り返ってみると

「大変で大変で。何度も後悔しました。それでも、今振り返るとよかったなと思います。いい研究と先生に出会えて、自分から勉強しようという気持ちになれたからです(川部)」。

川部は自身の内部の変化を感じているという。

「就職も望んだ形で決まりました。梨と柿の農業事業に新規参入した鳥取のエネルギー関連の企業から内定をいただきました。鳥取の祖母の農園の近くで働くことができることで、もしかしたら将来は農業事業に携わることができるかもしれません。とにかく、頑張ればなんとかなるという気持ちが、大学での4年間で湧き上がってきたと、今なら思えますね」。

渋々始めた大学選び

「子供の頃から、鳥取に住む祖母が梨とカキを栽培している姿を見て、いずれは祖母の果樹園を継ぎたいと思っていました。そのおかげか、生物を中心とした理科は好きだったのですが、数学が苦手だったので理系である農学分野への進学はとても厳しかったです(川部)」。

進学に関しては自発的には程遠かったと高校時代を振り返る。

「高校時代は農業訓練校でもいいかなと思っていましたが、父親が4年制の大学を押したこともあり、お恥ずかしい話、渋々ですが大学を探しはじめました(川部)」。

川部は4年制に加えて「農学分野」「数学なしで受験可能」といったキーワードで受験可能な進学先を検索し、結果この大学に進学した、という。決して積極的とは言えない選択であった。

なぜ敢えて?

川部が最終的に選んだ研究は、「食品加工学研究室」の安達修二教授のテーマであった。

同研究室は食品工学が主な専門分野、農学分野でありながら工学的な研究や学問をも行うため、かなり数学を使う頻度が高い研究である。実際、授業や研究でも多くの数式が登場する。

ずっと数学に苦手意識を抱えてきた川部が、敢えて安達の研究室を選んだのはなぜだろうか?そのきっかけは、3回生の時に行なった食品加工実験での安達との出会いであったという。

これまで目を背けてきたけれど

「元々は農業分野に興味がありましたが、安達先生から『乾麺を水で戻す研究をしている』という話を耳にして、『それは面白そうだな』と感じて(川部)」。

しかし、一足飛びに研究室を決める、とまではいかなかったいう。

「授業の時の印象から『安達先生の研究は難しそう』というイメージがあって、本当にすごく悩みました。けれど、それまでの自分自身を振り返ると、今まではかなり楽をしてきて、苦手なことから目を背けてきたので、大学生の最後の年くらい、ひとつ頑張ってみようかなと思い、最終的には安達先生の下での研究を選びました(川部)」。

悩みの末の選択であった。

研究の始まり

安達はその時の川部との出来事を振り返る。

「学生が学問や研究に対して興味を持てるきっかけになるかと思い『緊急時の非常食』という話をしました。川部君は面白がって、早速日清のどん兵衛とカップヌードルを水に戻して食べてましたね」。

川部はこの時のことを話してくれた。

「とにかく食べてみよう、それだけでした。水で戻した麺を食べたのは初めてでしたが、水を注いでから30分経った後に食べてみたところカップヌードルは結構いけました。どん兵衛は麺の表面が油でベタベタして、全然ダメでした。ただ、先生が出されたの研究課題は『10分で食べられる麺』でしたので、10分で再度トライしてみたところ、全然ダメでしたね」。

そんな中で川部には1つの発見があったという。

「たしかに麺は硬くて食べにくかったですが、具材の卵やカップヌードルの中の肉の塊は10分でもいい感じに戻っていて、美味しかったんです。このことを安達先生に話したところ『たんぱく質成分が多いかやくが先に戻ったのだったら、たんぱく質が豊富な大豆麺を試しても面白いかもな。大豆麺に関しても調べてみて』と、次のステップに進んで行きました(川部)」。

研究のきっかけ

安達がこうした研究を始めるきっかけとなったのは、製粉会社の担当者が「常温の水で戻せるインスタント麺の研究開発」を持ちかけてきたことに由来する。

「前職の研究室の博士課程の学生で、現在は同研究室の助教がパスタに関する発表を行った際に製粉メーカーの方が声をかけてくださったのがきっかけとして、様々な研究のプロジェクトが始まりました(安達)」。

そして、その可能性についても言及した。

「水で戻すことができる麺の社会的なニーズは、確実にあるだろうと思っています。例えば、東日本大震災の被災地では、みなさまの好意により送られてくる食料がたくさんあったそうです。特に乾パンや菓子パンが多かったようですが、同じものばかりで飽きがくることが問題になったという話を耳にしました。同時期に保存性が高いインスタントヌードルもたくさん送られてきたようですが、被災地では水はあっても湯が簡単に手に入らないので、現場では食べられないケースも多かったと聞きます(安達)」。

振り返ってみると

「多忙な先生に対して、僕なんかがなんとなく感じたことを伝えるのは失礼に当たるんじゃないかと不安がありました。でも、僕が伝えた些細なことから、先生が新しい切り口を示してくれる。勉強は大変ではありましたけど、でもそれ以上に、そのやりとりが嬉しかったです。先生の出して下さる切り口を実現できるように、そこに向けてまた頑張ろうという気持ちになりました」。

川部は、大学生のこの時期に、これまでの自分自身よりも少しだけ前向きに人生に向き合う勇気ときっかけをくれたことを感じながら、次のステージに向かって歩み始めている。

京都学園大学 バイオ環境学部 食農学科 教授

安達 修二

1974年京都大学農学部食品工学科卒業/1978年同大学大学院農学研究科博士課程食品工学専攻中途退学。京都大学農学博士、京都大学工学部助手、新居浜工業高等専門学校助教授、静岡県立大学食品栄養科学部助教授、京都大学農学部助教授、京都大学大学院農学研究科教授を経て、現職。主な研究分野は食品工学。食品加工プロセスの合理的な設計に資する基礎的研究などに従事する。主な著作は「食品工学入門: 食品を造る基礎科学」(共著、カルチュレード(株))、「Introduction to Food Manufacturing Engineering」(共著、Springer)など。