ロボットと学ぶ授業:獨協医科大学「人工知能時代における学び」

心と心を通わせる

獨協医科大学(栃木県下都賀郡)基本医学情報教育部門教授で情報基盤センター長を兼任する坂田信裕は授業が始まる直前に、その思いを口にした。

医療や介護の現場におけるロボットの活用は今まさにホットトピックです。人手不足の解消や支援のために、現在の様々な活用方法が試されています。私はロボットを『どう活用するか』という視点の取り組みの中でも、人と人の関わりの中にロボットを据えて、利用者がお互いに心と心を通わせることができるのかについても興味があります。こんなロボットがいて、人工知能が発達していく中、学生達にも自らの学びも含めて考えることが必要になってきていると思います」。

4年目を向かえたティーチング・パートナー・ロボット

授業が始まると坂田はまず開口一番こういった。

「今回の授業では、ここにいるロボット達と一緒に授業を進めます。」

テレビやショッピングモールで見たことのある、あのロボットが3台もいる。ソフトバンクロボティクス社のコミュニケーションロボット、Pepperである。学生たちは皆、ロボット自身による自己紹介に注目している。2014年にロボットを導入してから、授業でのパートナーとして、すでに4年目になっているという。

「今日の授業のテーマは『医療現場におけるAI技術の活用』です。AIの現状について知ってもらいたいことと、AIとの連携もできるロボットの実物を見て、触れる中で、AI時代におけるみなさん自身のことも考えるきっかけにして欲しいと思っています。」

その後、授業は中盤に入った時である。

今、AIなどのテクノロジーが必要とされてきている理由の説明スライドになると、Pepperが坂田の代わりに説明をすることになった。ロボットによる説明でも、学生たちはじっと集中しながら、その内容に耳を傾けていた。

さらに、Pepperは先生との間で、掛け合い的に話しを進める中、時に笑いを取りながら、学生たちに説明をしていた。Pepperによる話の後、続けて坂田が重要なポイントを指摘していた。教員と学生の間だけでの授業ではなく、そこにロボットが介在することで、授業が立体的に見えた瞬間である。

坂田の原体験

坂田が前任地の大学病院で、病院情報システムや遠隔医療、さらに教育に関する仕事や研究に従事していた頃の話である。

小児科から1つの相談がきた。

白血病などの病気により骨髄移植の治療を受ける患者は、数週間もの間、クリーンルームと呼ばれる病室での生活を余儀なくされる。それは、小児患者も同じであり、外とのコミュニケーションも取りにくい環境の中、生活をし、治療を受けている状況にあるという。

そのような状況にある子供達の生活の質の少しでも改善をできないだろうかとの相談の中、その病室と外とを結ぶ、”e-MADO(電子的な窓の意)”の開発に着手した。医師や看護師や院内学級の先生方と何度も協議を重ねながら、また患者の家族にもご理解をいただきながら、1人1人の患者への提供環境を作り上げていった。

e-MADOは、院内学級と病室や、患者の家(ご家族)と病室を結ぶインターフェイスとして運用を考えた。当時はまだインターネット普及状況が今ほどではないため、患者の自宅に新たにインターネット回線を引いて実現することもあった。そして、初めてe-MADOにより何十キロも離れている病室と自宅が繋がったその時が、坂田にとっても大きなブレイクスルーとなった。

クリーンルームにいる子どもがe-MADO越しに父親の姿を初めて見た時、「お父さんだ!」と喜びの声をあげた。そして、遠く離れて子どもの様子を見た父親の表情が一気に明るくなった。

坂田は「ICT(情報通信技術)という言葉は無機質のようだが、心と心をつなげ、通わせることができるものだと。」と感じた。

最適な学習環境とは?

授業が行われたのは獨協医科大学の教室棟の一部屋。決して新しい校舎とは言えないが、練られたレイアウトが特徴的なコンピューター教室であった。

5、6年ほど前、教室のデザインを考える上で「コンピューターを利用するだけではなく、グループ学習もできるなど、アクティブラーニングを前提とした授業を実施できる環境をと考えました。国内外のいくつもの大学の環境を参考に検討し、より本学に合った環境はという視点で考え抜き、2013年度末に構築・運用を開始しました(坂田)」。という。

学習環境のソフトデザイン

坂田はこう続けた。

「学習環境のデザインは、ハードも、そしてソフトも、とても大事です。現在本学で使用しているLMS(Learning Management System)は、2011年の東日本大震災直後に、学生の安否確認も利用目的の一つとして導入しましたが、授業での活用では、まず自分の授業をより活性化するために、どのような授業デザインが可能か、LMS利用を授業と一体化して活用していくことを考えました。利用目的に合わせ、インターレクト株式会社の担当の方にも、色々と機能についての相談をさせて頂きました。

本学に来る前に所属していた大学でも、LMSの全学的な普及に関わっていたこともあり、行いたい授業デザインとLMSの機能や使い方との間のギャップをどう埋めていくかなど、色々と経験値を積んでいました。そのため、本学でのLMS導入後は、インターレクト社に、実際に授業で使え、役立つ機能とするための機能追加や修正案などについて話を聞いていただきました。」

ICTを積極的に活用したアクティブ・ラーニング

「LMSを利用し始めた2011年度から、積極的にICTを活用していく授業スタイルに移行し始めました。しかし、今から考えると授業デザインもまだまだの状況であり、少しずつですが、試行錯誤を重ね、改善を繰り返していきました。今でこそ、アクティブ・ラーニングや反転授業といった言葉が一般的になっていますが、気がつけば、それらの要素をたくさん含んでいたわけです。また、学内におけるICT活用教育への関心をどう高めていくかについても同時に取り組みました。幸いなことに情報基盤センターのセンター長として学内の情報ネットワーク環境の企画や構築を任されています。そのため、全学的な無線LAN環境などを含め、数年後を想定したICT活用教育環境構築を進めることもできたことが、その後の学内全体での活用展開につながり、良かったのではないかと考えています(坂田)」。

坂田は、今回の授業で事前課題として、LMSを通じて学生に課題テーマとテーマに即した記事や文献を配信した。学生は、授業当日の朝までに自分が担当する記事や文献を読み、学んだテーマに基づいたレポートを作成・提出することが求められていた。授業では、学生が作成したレポートの内容をグループで共有し合い、議論を行う形式で進められていた。この手法は、自らの考えだけではなく、他のグループメンバーの情報からも新たな気づきや知識の獲得がみられているとのことだ。

今回の授業は、アクティブ・ラーニングの形にLMSを積極的に活用し、さらにロボットも加えて、より立体感を醸し出して行うというICT活用教育の新たな学びの環境を考えて実施していた。さらに、AI時代が到来する中、学生に今後の医療や自らの学びを考えてもらうことを授業目的としている斬新なものであった。

テクノロジーは人と人とをつなぐもの

授業を締めくくりに坂田は学生たちにこう告げた。

「今日の授業のポイントは、AIが展開していく中、その利点や課題点などを知り、みなさん自身も考えていく必要があるという点が一つ。それと、ロボットなどのテクノロジーは、人と人の想いや気持ちをもつなぐこともできる、ということです」。

「私はロボットも交えて一緒に授業を行うことがもっと普通になればと思います。今はまだ『坂田先生だからできるんでしょ』と言われることもありますが、次第に変わってくると思います。授業を実際に見てみたいという方には学内外の方にも見学をして頂いていますし、また、様子を聞いてみたいという方がいらっしゃれば、ロボット達と一緒にどこにでも行っていますし、これからも行きますよ!(坂田)」。

獨協医科大学 基本医学 情報教育部門 教授,情報基盤センター長

坂田 信裕

北里大学衛生学部卒業後,防衛医科大学校内科学第一講座,米国コロンビア大学,ミズーリ大学コロンビア校,ワシントン大学などを経て,2003年に信州大学医学部附属病院医療情報部。同院医療情報部講師(副部長)を経て,2010年に獨協医科大学国際教育研究施設医学情報センター准教授。2011年に同大学基本医学情報教育部門准教授,情報基盤センター長。2013年から現職。