目の前の事象に疑問をもち、自ら問いかける力を:常葉大学造形学部「インフォメーションデザインA」

情報をデザインする

静岡県にある常葉大学造形学部、その教室の壁・ホワイトボード・テーブルのいたるところで作業に取り組んでいる学生の姿。廊下の壁を使用し、また隣の部屋まで活用する学生も見られる。

安武伸朗教授(常葉大学造形学部)が担当する科目「インフォメーションデザインA」。履修する20名ほどの学生は、ワークに取り組みながらメンバーと積極的に協議を行い、何度も質問する。

授業での実装を行う

デザイン思考や人間中心設計 (HCD: Human Centered Design)という言葉が学生の口からも頻繁に飛び交う。国内においてはまだまだ浸透していない考え方とアプローチを、安武は実戦形式で授業デザインに盛り込んでいる。

一緒にゼロから作り上げた経験

「2010年頃から、同じ志を持っている他大学の教員や企業の方々と一緒になって、授業デザインを考えてきました。そもそも『何もない』状態であったため、ゼロから作る必要がありましたが、そうしてご一緒させて頂いた経緯もあって、今では地元の企業や行政との協働が実現できている、という部分があると思っています(安武)」。

安武の授業や課外活動を通じた外部との連携は、地元の金融機関、行政やJAに加えて、地域の文房具屋や株式会社T-MEDIAホールディングス・株式会社アイ・エム・ジェイなど、業種や規模の大小を問わない。

参考:株式会社T-MEDIAホールディングス・株式会社アイ・エム・ジェイ・常葉大学造形学部 安武研究室による産学共同研究プロジェクト、「埋もれた可能性を発掘」音楽体験の新たな価値創出 産学協同研究プロジェクトのニュースリリース記事

授業テーマ:デジタルネイティブ大学生と銀行

「ICTによって産業のあり方が大きく変化しています。それは銀行に関しても同じことが言えると思います(安武)」。

「例えば、携帯やパソコンを使って『より安く、早く、便利に』が常識になっている現代の若い人たちにとって、『銀行は私たちの暮らしにはかかせない』と考え『銀行は便利』と感じている人がどのくらいいるでしょうか。私は若い学生さんにとってはスマートフォンが金融サービスそのものと言えると思っています(安武)」。

若者と銀行の今と未来の接点を視覚化する

「本科目では、デジタルネイティブな世代である学生を顧客対象として、アマゾンやメルカリでの購買行動やライブチケットの購入など、主に小口決済に関する行動と心理を『メンタルモデル』『エクスペリエンスマップ』などの手法を用いて視覚化します」。

学生の本音はどこにある?

「顧客としての学生の決済に関する『期待や満足』『課題や不安』といったUX(ユーザーエクスペリエンス、顧客体験)に関する1つの現実を学生と静岡銀行担当者の間で明らかにすることを目的としております」。

デザインで身につけて欲しい力

「授業のキーワードは『マーケティング × デザイン』です。造形学部の授業ですが、表現のためのデザインではなく、様々な業務において使える技術としてのデザインを身につけて欲しいと考えています」。

「それは目の前の事象に疑問をもち、自ら問いかける力です(安武)」。

安武のキャリア

大学卒業後、6年間静岡に本社を置く世界有数の総合模型メーカーTAMIYAに宣伝部デザイン室のデザイナーとして勤務。当時では珍しく、デザイナーである安武自らが営業と同行し顧客との接点を持ち、新たな商品開発のための情報を収集し、社内に持ち帰っていた。今でいうところのマーケティングや顧客のフィードバックを開発に生かす立場を担っていたTAMIYAでの経験が、現在の安武に大きく影響を与えたという。

有志の学生が集まる研究会

安武は、カリキュラムに留まらない場を学生や企業に提供している。学生が有志で集まる研究会「In & Out Lab」がその1つだ。

「In & Out Labでは、学生は、HCDのルールを基盤に、産官学共同のデザインプロジェクトをテーマとして、クリティカルに考え、何度もプロトタイピングする姿勢を学びます。扱っている内容が学部のカリキュラムの枠にはまらないため、有志の学生が集まる研究会として位置付けて学内的には部活扱いにしています(安武)」。

「参加している学生は、自発的に参加しているため目つきが違います。研究会を通じた成果の取り扱いに関しては、学生個人に委ねられていますが、自分のお金で遠方の学会会場に足を運び、発表する学生も多いです。発表後の懇親会では自らネットワークを広げるなど、学生のみなさんは目の前にあるチャンスをよく生かしていると思います(安武)」。

産学協働では学びの要素を

「私はどのようなプロジェクトであっても、常に学生の学びの要素を優先的に考えています。偉そうなことは言えませんが、企業との協働の場合は基本的には対価をいただきません。その代わり、企業側の担当者が好む好まないを気にせず、私たちは調査を通じて導き出した分析結果や提案はそのまま色をつけることなく共有する、できるようにしています。それが企業にとってもいい意味で色がつかない、価値のある情報となると考えています(安武)」。

安武は産学連携に対する自身の考えをこうまとめた。

常葉大学 造形学部 造形学科 教授 / キャリアサポートセンター長

安武 伸朗

大学を卒業後、株式会社タミヤへ入社、宣伝部へ。その後、株式会社代々木スタジオにてクリエイティブディレクター、専門学校ルネサンス・アカデミーオブデザインではグラフィックデザイン科教諭、総合デザイン学部の副学部長を経て、2007年に常葉大学にて教壇につく。情報デザイン、UXの研究・教育を専門とし、主にシビックプライド醸成の研究、インフォグラフィックス、ブランディングの開発、リアルタイムドキュメンテーション研究に従事。また、地元の企業や行政に加えて在京の企業との産学官共同プロジェクトも多数抱えている。また自身の経歴を生かしたキャリア教育も担当。