適正技術教育 -Demo Day 2017-:筑波大学ヒューマンバイオロジー学位プログラム

プロジェクトの進捗とプロトタイプを披露するDemo Day

2017年12月9日、2012年から開講した入江賢児教授(筑波大学大学院人間総合科学研究科生命システム医学専攻) が担当する「適正技術教育」は今年度で4年目となる”Demo Day 2017″を行った。

多様な国籍とバックグラウンドを有する学生が参加し、毎年テーマを試行錯誤しながら行ってきた「適正技術教育」、今年度のテーマは「QOL(クオリティ・オブ・ライフ)」、人々の生活の質的向上であった。

Demo Dayは地域の中小企業経営者、企業での豊富な経験を有するアントレプレナー育成の専門家、そして社会起業家といったゲストを交えて、Demoに関する意見交換やフィードバックを行った。

筑波大学大学院における適正技術教育

筑波大学ヒューマンバイオロジー学位プログラム(HBP)は、ヒトの健康・安全・幸福に寄与する目利き力、突破力、完結力、専門力を兼ね備えた次世代の世界トップリーダーとなりうる人材の養成を目的として2012年からスタートした大学院博士課程プログラムである。

HBPで新たにはじまった授業科目「適正技術教育(Appropriate Technology)」は、課題発見力・課題解決力・実践的な知識の応用力を養成することを目的とし、履修学生それぞれが、発展途上国や災害現場・国内の課題先進地域など地域を設定しフィールドワークを行う。フィールドワークを通じてその地域の現地ニーズ・環境・文化・習慣・社会的背景を懸案した上で、必要とされる適正な技術を応用し持続可能な解決策を開発することを目指す、課題発見・解決型のプロジェクト学習プログラムである。

履修生の声

「適正技術教育は私が今まで受けた授業の中で、最もユニークな授業のうちの一つであると言えます。この授業の中にはトランス・ラーニング、ブレインストーミング、フィールドワーク、プロトタイピングといった様々な学習プロセスが組み込まれているためです。授業中に生徒自身がその日のトピックについて学んだことを教え、共有します。人に教えることによって理解が深まるため、これは学習するにあたり、より効果的な方法であると考えます。おかげで自信をもって人前で話すことができるようにもなりますし、チームメイトとのチームワークを高めることも可能になります。」

茨城県常陸太田市里美地区におけるフィールドワークの様子

フィールドワークに参加した外国籍学生の声

「フィールドワークでは、常陸太田市を訪ね、その地域で暮らす方々からお話を伺うことができました。その中で、常陸太田市について、私たちが取り組むべき課題について様々なことを学ぶことができましたが、日本で暮らす外国人にとっては、フィールドワークは想像していたほど簡単ではありませんでした。初めは障壁となるのは言語だけであると考えていましたが、文化や社会の違いが言語の違いよりも問題となるということにすぐに気が付きました。日本語を通訳してくれた学生たちのおかげで、問題や課題が起きているという事実はよくわかりました。私はそれに加えて、その背景にある“なぜ”を理解したいと思いました。例えば“どうしてそのようなことが起こっているのか”そして“日本と他のアジアの国々との違いはどこから来るのか”などです」。

 

半年以上に渡るプロジェクトを振り返る場として

ある外国籍履修生は授業を通じて改めて感じた気づきをこう振り返る。

「この授業を通じて実感したことは、技術は常に最先端のものである必要はなく、それどころか、適切なものでなくてはならないということでした」。

そしてこう続けた。

「授業とDemo Dayを通じて、適正技術の発展は決して止まらないということに気が付きました。私たちが誰か生活の質(QOL)を向上させることに興味を持ち続ければ、私たちにできることは些細なことであったとしても、プロトタイピングや製品開発の内容にかかわらず、私たちは前に進もうとすることができます」。

Demo Dayのコメンテーターの声

石井産業有限会社
 専務 石井 和明

先生方から与えられた課題に対して、学生が解決策を考えると言うのが私の授業のイメージでした。ですが、今回拝見した授業では、学生自身が地域に赴き、その地域の現状から課題・問題を見つけ、適正技術を用いて解決策を考えていました。自身で悩み考えるこのような授業は、今後の実社会において直面する問題への対応にとても有意義なものだと思いました。

原田義則(グローバル教育院 特命教授 連携教育研究アドバイザー)

「適正技術教育」では「社会貢献」的プロジェクトの多いことが特徴です。学生たちは皆、自ら抽出した課題に真摯に取り組み、何とか自分たちなりの解決策を見出そうとしていました。動画を用いたり、現物・プロトタイプを提示するなど、プレゼンテーションの質には素晴らしいものもありましたが、提案の質となると、未だアイデア倒れの面があり、実際にそのプロジェクトを発展的に継続するための方策の策定には未熟なところはありました。とは言え、自分たちの力で纏めた提案を提示し、第3者のコメントやアドバイスに素直に耳を傾ける姿勢には好感が持てました。この経験を活かし、次回の新たなプロジェクト提案ではより高品質のプロジェクト提案が出来るものと期待されます。

合同会社ポットラックフィールド里美 代表 岡崎 靖

短期間のフィールドワークの中でみなさまが地域の課題に向き合う姿勢に頼もしさを感じました。里美のような中山間地域は過疎化高齢化が進み、交通の便も悪く、都市のような娯楽施設や商業施設もない、一見価値のない場所にみえますが、豊かな森林空間、里山環境、水の豊かさなど、視点を変えると守るべきものがたくさんあります。「適正技術」は少ない人口でもいかに幸せに暮らせるか、その方法を探り解決するために必要な考え方だと、DEMODAYに参加しみなさんの成果を拝見し実感しました。

Demoの補足資料として準備をしたポスター資料

発見と学びと。そして未来に向けて

他の領域から本授業を履修していた日本人学生はDemo Dayを終えた後にこう振り返った。

「この授業と通じて学んだことの中で、大切にしたいことの一つは、小さなアイデアから始まるということです。人間である以上、そして学生の思いとして、”大きな問題を解決したい!”と考えてしまうことは当たり前のことだと思います。しかし、この授業では、理想主義やあるべき論に陥るのではなく、初めに一人の視点に立って問題を検討することが大切であるということを学びました。最初のうちは、技術が一人の問題だけを対象にするということで本当に大きな何かの役に立つことができるのか、不安を感じることもありました。試行錯誤を繰り返していくうちに、一人の問題は他の人の問題でもあるのかもしれないということに気が付きました。」

そして、適正技術教育は2018年度に続いていく。

筑波大学大学院人間総合科学研究科生命システム医学専攻

入江賢児 教授

大阪大学大学院工学研究科修士課程醗酵工学専攻修了後、同大学院工学研究科博士課程醗酵工学専攻を経て、名古屋大学理学部分子生物学科にて理学博士の学位取得。日本学術振興会海外特別研究員としてカリフォルニア大学サンフランシスコ校にてIra Herskowitz教授に師事、「酵母における非対称分裂の制御機構」の研究に取り組む。その後、大阪大学大学院医学系研究科分子生理化学教室助手、同研究室助教授を経て、現職に至る。

好きなものは、阪神タイガース、漫才、クルマ、写真、名探偵コナン、など。